母の携帯電話を解約しようとした。
しかし、NTT DOCOMOの回答は「契約者本人の委任状がないと手続きできません」というものだった。
母はすでに寝たきりで、署名も押印もできない。
それでも解約は認められず、使用されていない携帯電話に請求だけが続いていく。
形式上は正しい。
だが、そこに「人の生活」や「死」という現実は反映されていない。
契約が“生き続ける”という不条理
ドコモを含む大手通信キャリアでは、契約者が死亡しても、正式な解約手続きが行われない限り請求が継続する。
死亡届を出しても自動的に停止されるわけではない。
NTT DOCOMOは、身内が気づくまで請求をし続ける。
本人が亡くなっても、「委任状がない」「本人確認が取れない」という理由で手続きは止まる。
まるで契約そのものが人間よりも強い存在になったかのようだ。
構造上の問題:契約主義と“自動請求”モデル
通信業界の契約体系は、「契約を締結した以上、解約が確認されるまではサービス提供が継続する」という契約主義モデルである。
この構造には、いくつかの根本的な問題が潜んでいる。
● 利用実態ではなく「契約状態」で課金が継続
使用履歴がゼロでも、システム的には「未解約=契約継続中」と扱われ、料金請求が止まらない。
→ これは“自動継続サブスクリプション”と同様の構造である。
● キャリア側は能動的なモニタリングを行わない
「半年未使用」などのデータは保有していても、本人確認・個人情報保護の観点を盾に「契約者の死亡・不使用を確認する権限がない」として放置する。
→ 実際には「解約の遅延=継続利益」となるため、経済的には放置が得という構造的矛盾が生まれる。
● “非使用期間通知制度”が存在しない
銀行や公共料金には「長期未使用口座」や「名義死亡後の凍結」制度が存在する。
しかし、携帯業界には類似の仕組みがない。
→ 死亡や認知症などで解約不能になった場合でも、利用ゼロで永続的に課金が成立する構造となっている。
「多死社会でのビジネスモデル」としての側面
日本の高齢化率は29%を超え、携帯契約者のうち約4人に1人が70歳以上といわれる。
この層では、次のような事例が頻発している。
- 施設入居・入院で実際には使っていないのに、家族も契約を把握せず請求が継続。
- 死亡後も家族が口座振替を止めない限り、自動引き落としが続く。
- キャリアは「本人確認ができないから解約不可」として静観。
結果として、「不使用・死亡状態での継続請求」がシステム的に収益化されている。
倫理的に見れば、これはまさに「多死社会における放置型収益モデル」である。
法・倫理面での課題
この仕組みは、法的には「契約上の履行」として正当化される。
しかし、社会的・倫理的には重大な問題がある。
- 消費者契約法や高齢者保護の観点から、「長期不使用・本人死亡」などの特殊状況では、キャリア側にも解約確認の努力義務を設けるべきとの議論が進んでいる。
- 総務省も2023年以降、「高齢者・認知症・死亡者への通信契約対応ガイドライン」の策定を検討している。
改善案(理想的な制度)
こうした構造的問題を解決するために、通信業界が取り組むべき方向は明確である。
- 「長期未使用通知」制度の導入
半年〜1年利用実績がない契約には、キャリア側が家族・代理人への通知を行う。 - 「死亡・要介護時の自動凍結オプション」
マイナンバー・医療連携を利用し、死亡確認後は自動的に契約を一時停止。 - 家族代理人制度のオンライン化
寝たきりや認知症などのケースでも、家族がワンクリックで手続きできるようにする。
これらの制度は、単にトラブルを防ぐだけでなく、
“人の尊厳を尊重する通信インフラ”としての信頼を再構築する第一歩となる。
NTT DOCOMOの“解約させない理由”とは何か?
最後に、ドコモが「解約をさせない」構造的な背景を整理してみたい。
これは企業批判ではなく、制度の歪みを可視化する試みである。
| 想定される理由 | 具体的な内容 |
|---|---|
| ① 本人確認の厳格運用 | 詐欺防止・個人情報保護を理由に、代理手続きを極端に制限している。 |
| ② 収益構造の温存 | 使用実績に関係なく月額課金が継続する“固定収益”モデル。解約率を下げることが経営指標になる。 |
| ③ システム上の限界 | 解約には対面・書面が前提。オンライン完結や死亡自動連携が未整備。 |
| ④ 社内リスク回避文化 | 特例対応が面倒、責任所在が不明確になるため、現場は「ルールだから」と処理を止める。 |
| ⑤ 高齢化対応への想像力不足 | 認知症・寝たきり・死亡など、高齢社会の実情を想定した制度改定が進んでいない。 |
終わりに:制度の外に置かれた人々へ
「本人確認」という正義の名のもとに、
亡くなった人からもなお料金を徴収するシステムが、
この国の通信インフラを支えている――。
その現実を直視しない限り、
日本の“安心社会”は、誰も見ていないところで静かに崩れていく。
NTT DOCOMOだけの問題ではない。
しかし、最大手である同社が一歩を踏み出せば、
この国の通信制度は、人に寄り添う仕組みに変わるはずだ。
※本記事は実体験と社会的考察に基づくものであり、特定企業を誹謗中傷する意図はありません。


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